2018年10月30日火曜日

多金属クラスター合成のための原子ハイブリッド化

T. Tsukamoto, T. Kambe, A. Nakao, T. Imaoka, K. Yamamoto
Nature Commun. 2018, 9, 3873.

多元合金ナノ粒子の新たな合成手法を開発 

サブナノメートルスケールの金属クラスターの化学は、特に多金属クラスターにおいて、サイズと組成を制御して合成することが難しいため、まだ十分に理解されていない。多金属サブナノクラスターのテンプレート合成は、マクロ分子テンプレートとしてフェニルアゾメチンデンドリマーを使用することによって達成される。その分子内ポテンシャル勾配により、最大8元素を含む金属前駆体複合体をテンプレート上に正確に取り込むことが可能である。この方法の有用性は、5元素(Ga1In1Au3Bi2Sn6)から成る多金属サブナノクラスターを合成することで実証されている。このクラスターのサイズと組成は正確に制御され、関与する金属は互いに合金化される。このアプローチは、異なる金属をさまざまな組み合わせで簡単にブレンドし、サブナノメートルスケールの新しい材料を作成する能力を提供し、化学の分野における新しい領域の発展につながるであろう。

Atom-hybridization for Synthesis of Polymetallic Clusters

The chemistry of metal clusters on the sub-nanometer scale is not yet well understood because metal clusters, especially multimetallic clusters, are difficult to synthesize with control over size and composition. The template synthesis of multimetallic sub-nanoclusters is achieved using a phenylazomethine dendrimer as a macromolecular template. Its intramolecular potential gradient allows the precise uptake of metal precursor complexes containing up to eight elements on the template. The usefulness of this method is demonstrated by synthesizing multimetallic sub-nanoclusters composed of five elements (Ga1In1Au3Bi2Sn6). The size and composition of this cluster can be precisely controlled and the metals involved are alloyed with each other. This approach provides the ability to easily blend different metals in various combinations to create new materials on the sub-nanometer scale, which will lead to the development of a new area in the field of chemistry.


日刊産業新聞「多元合金ナノ粒子…」

Nature Communications誌に掲載された「多元合金ナノ粒子の新たな合成手法を開発」に関する記事が9月26日発行の日刊産業新聞(12面)に掲載されました。



日刊産業新聞 (2018年9月26日 12面)


2018年10月16日火曜日

研究室後輩の皆様へ(竹永)

私は現在、電機メーカーで材料に関する研究開発を行っています。その中で幸運に恵まれ、社内の留学制度を利用して、英国Imperial College London修士課程に技術留学する機会を頂きました。社内のことは機密の関係で書きにくいため、山元研究室在籍時を振り返りながら、留学中に感じたことを書かせて頂きたいと思います。少しでも現在の学生の皆様の参考になる部分があれば、幸いです。 
留学先研究所の方々と 

山元研究室へ

「材料」「電気化学」に惹かれて大学で化学の道に進んだ私は、学部3年の研究室選択時に、新しい材料(デンドリマー)を使って白金触媒の研究をされていた山元研究室に興味を持ちました。先生のお部屋で話を伺った際に、「新しい材料が新しい時代を拓く」と熱く語って頂き、山元研究室への配属を希望し、無事に配属されました。現在もメーカーで材料開発を行う私にとって、この「新しい材料が新しい時代を拓く」という言葉は、仕事をする上でのモチベーションの源泉になっています。

山元研究室で学んだこと

研究室在籍の3年間で、材料研究の楽しさ・奥深さのみならず、本当に沢山のことを勉強させてもらいました。特に、今でも感謝しているのは、多くのプレゼンテーションの機会を頂いたことです。毎月の研究室内での進捗報告や、多くの学会発表の機会を頂いた中で、「どういう発表をすれば聞き手の方に分かってもらえるか」を常に考えさせられました。この経験は、社内や留学先で、(特に自分と大きく異なるバックグラウンドを持つ人たちに)自分の仕事を伝える際、非常に役立っています。

研究のみならず、ソフトボール投手も頑張った山元研究室在籍時

英国留学へ

学生時代に材料開発の面白さを知った私は、卒業後にメーカーで材料開発職に就きました。その上で、世界最先端の材料技術を学んでみたいとの想いから、社内の留学制度を利用した英国大学院留学を目指しました。出願に当たって「過去の業績一覧」を書く必要が有りましたが、山元研究室在籍中の業績(論文・特許・学会発表・学会での受賞)のお陰で、大きなアピールが出来たと思います。会社に入ってからの仕事は多くの場合、詳細を外部に公表することが難しいため、学生時代に外部に研究成果を発表する多くの機会を下さった山元先生に、深く感謝した次第です。

留学中に感じたこと

一番感じたことは、英語が不完全であっても、サイエンスの道具(数式や化学式等)を駆使することで、研究においては多くの場合、十分な意思疎通を図れたということです。所属した研究室では、原則毎週指導教官と個別ミーティングが有り、ネイティブスピーカーの先生と1時間以上、英語でディスカッションを行うのは非常にハードでした。しかし、結果を丁寧にまとめた資料を毎回作ってデータやサイエンスの基本に基づいて話をすることで、毎週有意義な技術ディスカッションが出来ました。また、最後の修論発表会では、英語力で他の学生に劣る中でも、最優秀プレゼン賞を受賞することも出来ました。サイエンスやサイエンスの伝え方に関する知識・経験があれば、(様々な苦労はあるものの)異なる言語・文化の中でも何とかやっていける、という手応えを掴めました。

最後に

私の卒業以降、山元研究室の施設は益々充実し、その中で研究が出来る現在の学生の皆さんを羨ましく思います。恵まれた環境の中で、皆さんが新たな発見・発明をされるのを楽しみにしつつ、私自身も山元研究室や留学先で学んだことを活かして、産業界から材料分野の発展に寄与できるよう頑張ります。